クリエイターズコラム
無駄のない美しいデザイン
還暦を迎えた私ですが、週末には趣味のサーフィンへと出かけています 自然の中で過ごすこの時間が、私にとっての元気の源なんだと思います 週末が近くなるとワクワクとした気持ちで、 天候の気圧配置や潮の潮位・風向きなど総合的に分析して向かうサーフポイント(場所)を決めています すべての自然環境のバランスが整った時だけ「美しい波」と出合うことができます 波は崩れて消えてしまう儚いものですが、 その波に出合えた時の高揚感は、私にはとても刺激的で特別な瞬間であります 人が美しいと思う造形の原点は、 自然界の最小限のエネルギーで、最大に効率の良いカタチが 無駄のない美しいデザインと感じるのだろうと思います この美しくブレイクしていく波の形は どことなく黄金比を表す図形に似ていませんか 人は自然界に魅了させられ、そして自然の中で学びを得ていると思います   私たち人間は自然界でみた知恵を産業デザインに応用しています 新幹線の形状は、水面に飛び込む際に抵抗の少ないカワセミのくちばしの形状を採用されたり マジックテープの原型も、子供の頃遊んだひっつき虫と言われる植物から生まれました また、水泳競技で使われる水着にも、水抵抗を無くすようにサメの皮膚構造を応用して 開発されたものもあると聞いたことがあります 自然界で何百万年もの進化によって生み出された効率の良いディテールが、 現代の技術で課題解決に役立っているのだと思います 自然の進化から発想を得るプロセスはとても共感できます 私は美しい波を見つけるように、様々なデータ分析とバランスのとれたロジックで 人々の心に響くデザインをこれからも創造していきたいと思います...
下地と表面加工
週末の土日。 インドア派の私は、よほどの予定がない限り、自宅の作業デスクから離れることはない。 趣味で集めたフィギュアのカスタムワークをしていると、1日が一瞬で終わってしまう。 本当に恐ろしい。 昔からアメコミ映画が好きで、集めてきたフィギュアも気づけば100体を超え、 部屋のコレクションケースは常に満員御礼である。 ただ、いつからか“集める”だけでは満足できなくなり 自分の手でもっと“本物”へと近づけたいと思うようになってしまった。 カスタムワークと言っても千差万別。 2つ以上のフィギュアを組み合わせる“ミキシング” プラ板やパテを駆使してパーツを1から作る“フルスクラッチ”などなど。 作業規模が大きくなるほど、複雑な工程は増えていく。 ゴールまでの道のりが長く、私は一体何をやっているんだと思う時もあるが、 それ以上に完成を楽しみにしている自分がいる。 そんなカスタムワークの中で、最も沼が深いのが“塗装”の工程。 質感や存在感を成立させる肝の部分であり、 いかに“本物”に近づけられるかは、この塗装で決まると言っても過言ではない。 塗装の工程の中でまず大事なのが「下地」。 サーフェイサーと呼ばれる下地塗料を最初に吹きつけることで、 加工時の微細な傷跡や凹凸をフラットにする役割もあるが、 この下地の“色”そのものが最終的な色調に大きく影響を与える。 例えば、青色を塗装したい時、下地が白だと鮮やかで明るい色になるが、 下地を黒にすれば深く濃いディープブルーになる。 シルバーの下地にクリアブルーを吹き付ければ、 とても美しいキャンディブルーになる。 塗装色は下地の影響を大きく受けるため、それぞれが重なった時にどんな色になるか、 想像しながら進めていく必要がある。難しくもあるが、理想の色になった時は心が躍る。 次に重要なのが「表面加工」。いわゆるトップコート。 これは塗膜の保護のためだけでなく、全体の質感を左右する極めて重要な仕上げの工程となる。 金属感を表現したいパーツには光沢トップコートでギラギラに、 肌や布っぽいパーツにはつや消しを吹いてしっとりとさせる。 使い分けることで、“本物感”への説得力が増してくる。 この「下地」と「表面加工」。 パッケージデザインにおいても、大切な考えだと言える。 例えば、コート紙はインクの発色が良く、鮮明な色で印刷されるが、 クラフト紙や和紙のようなテクスチャがある紙では、 インクは吸収され鮮やかさよりも柔らかさを持った色味へと変調していく。 そこへさらに、UVニスやマット加工、エンボスなどの表面加工を加えていくことで 色の差だけでは表現しきれない、質感のメリハリや立体感を生み出すことができる。 下地の紙質や仕上げの加工が違えば、 同じデザインでも全く異なる印象を与えるが、それは単に見た目の違いだけではない。 あたたかさや懐かしさ、楽しさや新しさなど デザインの背景にあるコンセプトを伝えるための1つの要素にもなりうる。 手に触れた瞬間の印象や微妙な色のトーンまで含めて、 完成形から逆算し、細かな領域にまで検討を重ねる姿勢こそが、 クリエイティブの質を高めてくれると信じている。 今後も私のコレクションケースの中は増えていくだろう。 気づけば工具も塗料も増え続けてきているが、 何よりフィギュア本体の価格が高騰し続けている。 情熱は確かにある。 しかし、冷たく静かに増えていく出費。これが本当に恐ろしい。...
京都の庭と、その巡り方
初めまして。 絶賛クォーターライフクライシス中の山口です! 大人になると、自分の力ではどうにもできない悩みを抱えたり、人生について漠然とした不安を感じたりすることがありますよね。 一年間毎日頑張った大人のみなさん、たまにはちょっと静かな場所へ旅に出かけてみませんか? 今回のテーマはこちら! 「自分の心と真正面から向き合いたいあなたに。京都の庭と、その巡り方」 私は京都の美大で4年間学び、その間、進路や制作で迷ったときによく日本庭園を巡っていました。 観光客が多く交通手段にも限りのある京都で、代表的な庭園を効率よく回れるルートをご紹介します! 提案ルート 1 龍安寺 → 2  南禅寺 → 3  建仁寺 →4 東福寺(イチオシ!) 以下、それぞれのお寺の見どころと、その庭園に込められた意味をざっくりご紹介! 1 龍安寺(住所:京都市右京区龍安寺御陵下町 13) 見どころ:あの有名な枯山水枯山水のお庭には15個の石があって、「15」という数字は東洋で“完全”を表します。 しかしこの庭では15個すべてを一度に見ることはできない――つまり、このお庭は不完全な景色で、 人生はどれだけ努力をしても全てを見ることはできない、という意味があるとされています。 この景色を眺めることで、完璧じゃなくてもいいんだと思えるようになるかもしれません。 でも実はこの庭、「こういう意味だ」と書かれた文献はなく、見る人に解釈を委ねる作品なのです。人によって見え方が変わる余白こそ、この枯山水の真の魅力。私もいつか余韻や余白のあるデザインを作っていきたいですね。 2 南禅寺(住所:京都市左京区南禅寺福地町) 見どころ:「如心庭(にょしんてい)」――“心を整える庭”この庭は「心を整える = 風景を整える」という考えで造られたと言われていて、 静かに景色を眺めることで、自分の中の雑音が少し静まり、じんわりと自分のペースを取り戻せるような空間です。特に慌ただしく生きる現代人は、このような心を整える時間がなかなか取れていないのではないでしょうか。 庭をぼんやり眺めながら物思いに耽るだけで、仕事や人間関係にも良い影響があるかもしれません。 ――もしあなたが「心を表現して」と言われたら、どんな作品を作りますか? 3 建仁寺(住所:京都市東山区大和大路通四条下る小松町) 見どころ:「○△□乃庭(まるさんかくしかくのにわ)」禅の考えでは、この世のすべては「○、△、□」という三つの形に集約でき、宇宙を表す記号とされています。 ここではこの三つの形をモチーフにした庭を見ることができます。 この世界も、そして私たち自身でさえも、○△□の集合体に過ぎない。宇宙のことを考えたら、自分の悩みなんて本当にちっぽけに思えるかもしれません。 4 東福寺(住所:京都市東山区本町15丁目778) 見どころ:前衛的な市松模様の庭昭和の名作庭家、「重森三玲」の手によって作られたこの庭は、伝統的な日本庭園の概念を、伝統に敬意を払いながらも再定義した現代の禅庭。人生に置き換えるなら、それは「移り変わる自分」と「変わらない自分」の融合。年齢を重ね、環境も変化した上で、それでも揺るがない自分らしさを見つけて、表現していきたいと思う人にぴったりのお庭です。 ★デザイナーのかたは一度「永遠のモダン」で調べてみてください!重森三玲の作品との向き合い方がとても勉強になります…!   いかがでしたか? 京都にはここで紹介した庭園のほかにも、たくさんの美しい庭があります。もし少しでも興味がありましたら、ぜひ実際に足を運んで、自分のための静かな時間を体験してみてください。...
OFFというデザイン
皆さんは、週末どんな休日をお過ごしでしょうか? 私の「OFF」は、ここ数年ずっとソフトテニスのコートにあります。 小・中・高とサッカー一筋だった私にとって、ソフトテニスは完全な“未知の領域”でした。 子どものテニスクラブの入団をきっかけに、自分のテニスシューズを買い、 息子のお下がりラケットを受け取ったあの日の「ワクワク」は、今でも鮮明に覚えています。 ルールもスコアの数え方もわからず、子どもたちに教えてもらいながら同じコートに立つ時間や 同じチームの保護者の仲間たちと熱い応援を楽しんだり 気づくと私は深いソフトテニスの世界に引き込まれていました。 大人になると、「ワクワクする」機会に出会うことや新しい挑戦をする機会が どうしても少なくなってきているような気がします。 けれど、何も知らないところから一つずつ学んでいく過程には、 忘れていた「ときめき」が確かに宿っています。 ソフトテニスは知れば知るほど奥行きを見せ、まだ見ぬ発見が揺らめいている。 私はきっと、これからもこの沼にはまり続けるのでしょう。 デザインの仕事も、同じです。 業種を問わず素晴らしいデザインに触れると、胸が軽く跳ねるようなあの高揚感があります。 「人の感情を動かせるクリエイティブデザイン」は、パッケージデザインでも日々追い求めているテーマです。 週末のコートに立って気づくのは、スポーツにはデザインの創造や発想がたくさん詰まっているということです。 ラケットのフォルム、ユニフォームの色使い、シューズのデザイン。 すべてにデザイナーの意図が、その一つ一つがプレイヤーの感性に作用し、パフォーマンスの一部になっていく。 創造と発想は、思いがけない場所で私たちの心に影響を与えてくれます。 私は、「OFF」の時間も「観察」と「体験」を大切にしています。 週末に拾った小さな「ワクワク」が、次のデザインを豊かにしてくれるから。 これからも、クライアントに“心が動く瞬間”を届けられるディレクターであり続けるために、 毎日をアップデートしながら歩んでいきます!...
光の色
  秋から冬に変わり始め、夕焼けが美しい季節になりました。 私の家のバルコニーからは中々立派な夕焼けが見えます。 子供の頃に夕焼けが見えた翌日は晴れると教えられてきました。 日本で夕焼けが見えるという事は、その時点で西側の中国大陸の空に雲が無く、西に傾いた陽射しが、日本まで届いている。 日光は波長が伸びると赤く見えるので、その赤い光が日本では夕焼けとなって見える。 翌日、偏西風がその雲のない空を日本に運んでくるので「晴れる」と言う事だと理解してます。 (間違っているかも知れませんが)       光の長さによって感じる色が変わる、興味深いことです。 学生時代、デザインを学ぶ中で、人が色を感じるメカニズムを教わりました。 人の可視光線には7つの色の間のグラデーションがあり、物体が外光スペクトルの中のどの範囲を吸収し、どの範囲を反射しているかで人が感じる色が変わる。 では、動物によって可視光線の範囲は違うので、人より広い範囲を可視出来る生物は一体どんな色を見ているのだろうと考えた事があります。 人が想像も出来ない色、概念の外にある見たことも無い色があるかも知れない、もし人がそれを可視出来た時、果たして人はそれを色と定義出来るのか等々、ワクワクとした空想をしていました。 年齢と共に、微細な色合いが見えづらくなる切なさを感じるこの頃、昨年白内障の手術をした後、新しい目で見た景色は想像以上に鮮明で美しく感じました。ありがたいことです。 空と海の青、新緑の鮮やかな緑、色付く赤や黄色、緩やかに変化し反射している光を、私の目は繊細に捉え、それを色として感じてくれている。これも幸福なことだと実感します。 自然を光の色の変化、何故その色に見えているのかという視点で眺めて想像みると、世界の景色は面白く豊かに、美しく変わるのではないかと思います。...
印象を変えるコーディネート
バスケットはお好きですか? 小学生の頃、漫画のスラムダンクに夢中になり、友達に誘われてミニバスを習い始めたのが私とバスケットボールとの出会いでした。中学生になり、練習の厳しさに挫けて部活はやめてしまいましたが、バスケは見るだけでも面白く、それからもNBAでの人間離れしたプレーに熱中していました。 中でもアレン・アイバーソンが大好きで、今も昔も私の中では最高にかっこいい選手だと思っています。NBAの中では小柄な体格ながら、類まれな身体能力を武器に巨体をくぐり抜けながらコートを駆け巡る姿を初めて見た時、大きな衝撃を受けました。華麗なドリブルやどんな態勢からでもシュートを決める得点力も去ることながら、HIPHOPを思わせるユニフォームの着こなしに魅了されたのです。 バスケットボールを習っていた頃の私は、試合の際にユニフォームを着るのが嫌でした。ランニングシャツにショートパンツというスタイルが、どう考えてもかっこ悪く思えたのです。体が華奢だったため、露わになった細い手足のせいでより貧相に見えたこともありますが、NBAの選手達に目を向けても、体型やプレーしている姿はとても美しいのに、なんとなくユニフォームが邪魔をしているように感じていました。(バスケットシューズだけはかっこいいと思っていましたが。) もちろん、ユニフォームの形状には理由があります。バスケットボールは、シュートやドリブルに腕を激しく使い、試合中は絶え間なく走り続ける屋内スポーツです。野球やサッカーなどのように日光にさらされることが無いため、通気性や動きやすさを突き詰めると、肌は出来るだけ露出していた方が効率的です。その結果、ランニングシャツにショートパンツにたどり着いたのではないでしょうか。ちょっとダサいけどバスケをするには最適、そういった妥協の末にあの形に至ったのだと思っていました。 そんな中、アイバーソンの存在を知った時、ユニフォームに対するイメージが覆されたのです。 アイバーソンが全盛期に在籍していたチーム(76ers)のユニフォームは黒基調に赤い差し色が入ったものでした。それに合わせるように赤と黒で統一されたリストバンドやサポーター、コーンロウの髪に巻かれたヘッドバンド、全身に黒一色で刻まれたタトゥー、もちろんバッシュも黒と赤。それらと共に緩めに纏った少し大きめのユニフォームは、むしろとてもかっこよくオシャレに見えたのです。 アイバーソンはユニフォームの色を理由に76ersを選んだわけでもなく、アイバーソンがユニフォームの色を決めたわけでもありません。(アイバーソンはたまたま居合わせた事件で警察に逮捕されたことが理由で、どこのチームとも契約できなかったところを76ersだけが手を差し伸べて契約したのです。)アイバーソンは既存のデザインに合わせて、プレーを妨げないアイテムだけを使って、イメージを一変させてしまったのです。アイバーソンの登場以降、NBAでは同様の着こなしをする選手が増えていき、HIPHOP系のファッションがNBAに定着していきました。 制限のある中で、既存の要素を生かしつつ、新しい要素を加えたり、少しだけ改変したりすることで、ネガティブな印象を払拭させたアイバーソンのコーディネートは、デザインにも通じるものがあると思います。 当時はテレビでバスケットボールを見れる機会が少なかったため、レンタルビデオを借りてきたり雑誌を読み漁る日々でした。今ではYouTubeなどのSNSにたくさんの動画があがっています。ぜひ一度、アイバーソンのプレーとコーディネートを見て頂ければと思います。...
人生の転機
こんにちは!ディレクターの柳澤です。 突然ですが、2020年1月15日が何の日か分かりますか? これは、日本で初めて新型コロナウイルスの感染者が出た日だそうです。 それからほどなくして目まぐるしく日常が変化しました。 当時の私は、高校2年生でした。突然部活ができなくなり、困惑したのを今でも覚えています。 ぱったりとやることがなくなりました。勉強嫌いだった私にはとても苦痛な期間でした。 そんなある日。友人の一人がSNSでゲーム実況の動画投稿を始めたいと言い出しました。 なぜか彼は、何の知識もない私に動画サムネイル画像の作成を頼んできました。 特に理由はなかったようですが。 初めて作った「それ」は、画像や文字を配置しただけのつたないものでした。 それでも彼は大いに喜んでくれました。彼の感謝の言葉が私のデザインの原点になりました。 ここから私は見様見まねでサムネイルを作りました。 狂ったように没頭し、他のゲーム実況者からも依頼が来るようになりました。 作ったサムネイル画像は一年半で1000枚を超え、 どんなサムネイルだと再生数を上げられるかなど、 思考を巡らせながらデザインにのめりこむ自分がいました。 受験期に差し掛かっていた私は導かれるようにデザイン専門学校に入学し、商業デザインの道に足を踏み入れました。 最近、ふと思うのは、あのきっかけが無ければ私はどんな仕事をしていただろうということです。 たくさんの悲劇を生んだ新型コロナウイルス。 しかし、良くも悪くも、私にとっては人生の転機になったように思います。 これからもたくさんの転機を迎えることになりそうですが、先のことは誰にもわからないわけで。   皆さんは、「人生の転機は?」という質問に対する答えを持っていますか?   23年という人生の中で、デザインと出会えたこと。向き合える環境がある今を私は幸せに思います。 立場は変わりヘルメスのディレクターとなりましたが、お客様のためになる提案を日々模索しています。 誰かの日常に寄り添うデザインを目指して!...
偶然と余白
もう長いこと、新しいペンケースを探しています。 スケッチ用のボールペンと、シャーペンと消しゴム、 欲を言うなら替え芯も入るぐらいの、やや小さなものを。 数年使っていたものが壊れてからというもの、 僕の筆記用具たちは薄手のバッグインバッグの中で ガチャガチャとやかましく幅を利かせ続けています。 早く買えよとお思いでしょうが、変なこだわりがあるのでそうもいきません。 ただ、僕はこの不便な状況を、生活する上での2つの考えの下、 そこそこ楽しく受け入れていれています。 そんなお話です。 1.偶然とか巡り合わせなんかを信じてみる 平たく言えば運命ってやつです。 素敵なものに出会うことは決まっていて、そこまでは全て前振り。 偶然や何気ない気づきが、自分だけのものに出会うための布石です。 少し肩の力が抜ける気がしませんか? ハンドメイド雑貨が並ぶマーケットに行った日も収穫は無かったですが、 「出会わないということはそういうことよ」と、気楽なものです。 なんならそこまで本気で探していなかったりもしますが。 ミスや空振りが続いてもなんてことはありません。 今日もだめだった、とは思わずに、溜めが長いね、と楽観的に。 自分らしいものは思いがけず転がり込んでくるもの。 物事を都合よく捉えましょう。 2.余白や間を楽しむ デザインっぽい言葉だと思って身構えないで大丈夫です。 無駄に思えるものがあるからこそ感じられる良さがある、ということです。 友人と港町に行き、美味しい魚を食べる会を開いた時のこと。 1時間に1本しかない帰りのバスに乗り損ねた僕たちは、 その待ち時間で海辺のスケッチをすることにしました。 目的であったはずの魚の味よりも、 余白の中で生まれたことがその日の一番の思い出になったのです。 今の僕は、「ペンケースが見つからない」という余白のおかげで、 出先で文具店を見つけるたびにわくわくできているのでしょう。 日々の余白や間を見つけても、無理に埋めずに、 そのままにしておくことで生まれる楽しさがあるかもしれません。   私たちはしばしば「必然性」や「足すこと」で表現しようとしますが、 思いもよらない豊かさは「巡り合わせ」や「引くこと」の中にあるのかもしれません。 ロジックの半歩先でオリジナリティが見つかる。 なにもない部分があるから、意図や想いを感じられる。 その結果、心地よく、長く愛せるものに出会えるのだと思います。 前のめりになりすぎず、ゆるっと楽しんでいきましょう。...
香りから見えるもの
こんにちは。デザイナーの宮坂です。 みなさんは、生活の中で「香り」を楽しんでいますか? 柔軟剤、ディフューザー、香水、お香など生活に根ざす香りのプロダクトは多種多様です。 数年前、ふらっと立ち寄った雑貨屋で「お香」に出会ってから、 僕の生活の楽しみの一つになりました。 お香と言っても、いわゆるお線香のような香りをベースにした和テイストのものから、 海外で親しまれているエキゾチックなものまで様々。 さらにその中で気持ちをリラックスさせるような甘い香りもあれば、 気持ちをスッキリさせるスパイシーな香りもあります。 様々な香りを試してきましたが、 安心感を覚える和テイストの香りに落ち着きました。 仕事帰り、家のドアを開けて、お香の香りを感じるとすごくほっとします。 真っ暗で視覚的情報がなくても自分だけの空間であることを感じるのです。 その安心感に結びつく原体験とは、 学生時代の帰り道にあるお寺の境内の香りや、祖父母の家で仏壇に供えたお線香の香り。 離れた地元の空気感での体験や、居心地のいい場所での体験が その香りを通して安心感を形づくっているのだと思いました。 「過去の経験が嗅覚や香りを通して、自分だけの価値ある空間をカタチ作る。」 これは、私たちのクリエイティブに繋がっていると思いました。 「おいしい、安心する」といった商品体験を パッケージデザインやグラフィックデザインを通して視覚化し、 唯一無二の付加価値を与える。 消費者のする体験に価値を持ってもらえるか。 その体験の価値をどう伝えたら良いのか。 商品やブランドに寄り添いながら、 体験を価値に変えることができるよう デザイナーとして直向きに取り組んでいきます。...
「推し活」とデザイン
近年よく耳にするようになった「推し活」というワード。 みなさんはご存知ですか? 私は2次元と2.5次元のオタクで、 日々を推しと共におもしろおかしく生きています。 今回のコラムでは、「推し活」を通して、 近年のクリエイティブの変化について考えていきたいと思います。     01.「推し活」とは まずはじめに、「推し活」とは、自分の「推し」と呼ばれる好きな人や物事を愛で、 様々な形で応援する活動のことを指します。 「推し」の対象は、例えば、アイドルや歌手、俳優、スポーツ選手、アニメや漫画などのキャラクター、 鉄道や車、建築物、刀剣などの物に至るまで人それぞれ。 その人が好きで応援するもの全てが対象となります。 一昔前までは、オタク活動としてアングラなイメージが強かった印象ですが、 時の流れと共にそのイメージも変化。 多様性を重要視する社会になってきたこともあり、 堂々と趣味として公言する人も増え、文化の拡大に繋がりました。 今では「推し活」というワードが文化の垣根を超えて認知度が高まり、 幅広い企業のPRにも使用されるように。 そういった人々をターゲットにしたマーケティングも増えました。 今平成で流行ったものがリバイバルし、 グッズや期間限定のショップ・カフェで展開されているのがいい例ですね。 多くの企業が「推し活」の経済効果に大きな期待を寄せていると言っていいでしょう。     02.「推し活」ってどんなことをするの? では、実際に「推し活」とはどのようなことをしていると思いますか? 具体的にこれ!といった決まりがあるわけではなく、 それぞれが自由に自分の“好き”を追求しながら楽しく活動しているため正解はありません。 同じ行動をしていても、楽しみ方はその人次第。 全く同じにはならないのが面白いところです。 私はよくグッズを買ったり、 推しのぬいぐるみやアクリルスタンドを連れてライブや舞台に行ったり、 コラボイベントに行ったり、推しの配信映像を見たりなどなどしています。 同じ「推し」を通して、社会人になってからも新しい友達ができる機会があることは、 自分の視野を広げる意味でもありがたいですね。     03.デザインの必要性 さて、話をデザインと結びつけると、 私は「推し活」と「デザイン」は切り離しては考えられないものだと思っています。 「推し活」のみならず、他にも当てはまることではありますが、 世の中にあるものはすべて「デザイン」されたものです。 生活にデザインが伴っていることが当たり前の社会で、 興味を持って「推す」まで到達するには、 相応の魅力的な「デザイン」が必要になると考えるからです。 例えば、アイドルや俳優、スポーツ選手など様々な推す対象がいますが、 そのどれもにデザインが付随しています。 衣装やヘアメイク、ユニフォーム、舞台演出、円盤のパッケージやグッズなどなど、 それぞれに合わせたデザインで付加価値をつけているのです。 2次元のキャラクターや、鉄道や建築物などの物は、 まずそれ自体がデザインの対象になっていますね。     04.求められるデザインとは? 推し活の“グッズ”に話を絞ると、 最近は手軽に絵が描ける無料アプリなどが普及したことで、 ファンが絵を描く・デザインすることが、昔に比べてより簡単にできるようになっています。 さらに、まだ様々な課題はあるものの、AIの進化によりハイクオリティな制作物が すぐに出力できるようになってきました。 100円ショップなどでも推し活グッズと称して、 簡単にオリジナルのグッズが作れるような商品が売られるようになっています。 SNSが普及し、リアルタイムで情報を共有し合えることで、 自分の推し以外の推し活情報まで簡単に手に入るようになった世の中で、 求められるデザインとは一体なんでしょうか? デザインは、より洗練されたものが求められるようになりました。 「推し活」がよりオープンな趣味へと変化したことにより、 露骨なデザインよりも、さりげなさやオシャレさを重視したデザインが好まれる傾向にあるように思います。 自分の界隈に限った話かもしれませんが、 例えばキャラクターのイラストが描かれているグッズよりも(アクリルスタンドや缶バッジなどを除く)、 身につけても違和感のないオシャレなものや、 キャラクターが実際に作中で使用していた物のグッズ化などが喜ばれている印象です。 さらに、推しのぬいぐるみを持ち歩く文化が発展したことで、 着せ替え用の服や小物などのグッズも人気が高いです。 オタクは考察しがちな生き物なので(諸説あります)、 どれだけ推しにまつわる要素が美しく組み込まれているか。 オリジナリティを出しつつ、遊び心をいかにプラスできているかが、 みんなが手軽にデザインを楽しめるようになった今、さらに重要になりました。     05.最後に 「推し活」の対象がもはや飽和状態と言っても過言ではない状況で、 「推し」に選ばれるには、他にはない個性や需要に合わせたコンセプト設定が必要不可欠です。 さらに、素人やAIでは成し得ない、 洗練されたユーモアのあるデザインであることが絶対条件になりました。 これは「推し活」に限った話ではなく、 先述したようにすべてのことに当てはまります。 私たちデザイナーは、常に流行を追いつつ、 変化する常識に対応しつつ、技術を磨き続けなければなりません。 期待に応えられるクリエイターとして腕を磨いた先に、 プラスワンの提案ができるかどうかが、 これから先のクリエイティブに対応できるかどうかの分かれ道になるのではないでしょうか。...
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