クリエイターズコラム
下地と表面加工

週末の土日。
インドア派の私は、よほどの予定がない限り、自宅の作業デスクから離れることはない。
趣味で集めたフィギュアのカスタムワークをしていると、1日が一瞬で終わってしまう。
本当に恐ろしい。

昔からアメコミ映画が好きで、集めてきたフィギュアも気づけば100体を超え、
部屋のコレクションケースは常に満員御礼である。

ただ、いつからか“集める”だけでは満足できなくなり
自分の手でもっと“本物”へと近づけたいと思うようになってしまった。

カスタムワークと言っても千差万別。
2つ以上のフィギュアを組み合わせる“ミキシング”
プラ板やパテを駆使してパーツを1から作る“フルスクラッチ”などなど。

作業規模が大きくなるほど、複雑な工程は増えていく。
ゴールまでの道のりが長く、私は一体何をやっているんだと思う時もあるが、
それ以上に完成を楽しみにしている自分がいる。

そんなカスタムワークの中で、最も沼が深いのが“塗装”の工程。
質感や存在感を成立させる肝の部分であり、
いかに“本物”に近づけられるかは、この塗装で決まると言っても過言ではない。

塗装の工程の中でまず大事なのが「下地」。

サーフェイサーと呼ばれる下地塗料を最初に吹きつけることで、
加工時の微細な傷跡や凹凸をフラットにする役割もあるが、
この下地の“色”そのものが最終的な色調に大きく影響を与える。

例えば、青色を塗装したい時、下地が白だと鮮やかで明るい色になるが、
下地を黒にすれば深く濃いディープブルーになる。
シルバーの下地にクリアブルーを吹き付ければ、
とても美しいキャンディブルーになる。

塗装色は下地の影響を大きく受けるため、それぞれが重なった時にどんな色になるか、
想像しながら進めていく必要がある。難しくもあるが、理想の色になった時は心が躍る。

次に重要なのが「表面加工」。いわゆるトップコート。

これは塗膜の保護のためだけでなく、全体の質感を左右する極めて重要な仕上げの工程となる。
金属感を表現したいパーツには光沢トップコートでギラギラに、
肌や布っぽいパーツにはつや消しを吹いてしっとりとさせる。
使い分けることで、“本物感”への説得力が増してくる。

この「下地」と「表面加工」。
パッケージデザインにおいても、大切な考えだと言える。

例えば、コート紙はインクの発色が良く、鮮明な色で印刷されるが、
クラフト紙や和紙のようなテクスチャがある紙では、
インクは吸収され鮮やかさよりも柔らかさを持った色味へと変調していく。
そこへさらに、UVニスやマット加工、エンボスなどの表面加工を加えていくことで
色の差だけでは表現しきれない、質感のメリハリや立体感を生み出すことができる。

下地の紙質や仕上げの加工が違えば、
同じデザインでも全く異なる印象を与えるが、それは単に見た目の違いだけではない。

あたたかさや懐かしさ、楽しさや新しさなど
デザインの背景にあるコンセプトを伝えるための1つの要素にもなりうる。

手に触れた瞬間の印象や微妙な色のトーンまで含めて、
完成形から逆算し、細かな領域にまで検討を重ねる姿勢こそが、
クリエイティブの質を高めてくれると信じている。

今後も私のコレクションケースの中は増えていくだろう。
気づけば工具も塗料も増え続けてきているが、
何よりフィギュア本体の価格が高騰し続けている。

情熱は確かにある。
しかし、冷たく静かに増えていく出費。これが本当に恐ろしい。

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