
風に誘われて
木の葉がひらひらとどこからか舞い降り
まるで地面に落ちるまでの時間を優雅に戯れるかのように
柔らかな軌跡を描きながら、美しく儚く、想いを紡ぐ
風に誘われて
鳥のさえずりが、どこからともなく響き
小川のせせらぎとともに静かに調和する
思っているよりも時間はゆっくりと刻まれていて
変化に抗うことなく自然の摂理に身を委ねている
デザインの発想を求めて週末に、思い立って車のキーを手に取った
最後にその場所に訪れたのは三年ぐらい前だっただろうか
都心の喧騒を少し離れ、心惹かれる神社へと車を走らせる
特に大きな理由があるわけではない
ただ、静かにほんの少しだけ“余白”に身を置きたく
自然の彩りのもとへと誘われた
朝の光がまだ柔らかい時間に家を出て
窓の外を流れていく野山の風景に、心がほどけていき
“生きているデザイン”のようなものが目の前にひろがる
山道は未完成のキャンバスを思わせる
何も足されていないのに、完全で、美しい
良いデザインは、“余白”にある
足すことより、削ぎ落とすことも大切である
目的地の神社は、山あいにひっそりと佇んでいた
鳥居をくぐると空気が一変し、ひんやりとした静けさが辺りを包み込む
背筋が自然と伸び、歩みはゆるやかになり、境内には誰もいない
耳に届くのは、風に揺れる木々の音と鳥のさえずり
そして、自分の足音だけが静かに響いている
手水舎で手を清めると、掌を包む静寂の水は
無垢な水晶のかけらのような感触に包まれる
賽銭箱の前でそっと目を閉じ
デザインと向き合う毎日を支えてくれる環境への感謝を伝える
静けさの中で、自分と向き合うこの時間を大切に思う
本殿で手を合わせたあと、静かに山道へと足を踏み出す
澄んだ空気の中、木々がそっと語りかけるように揺れ
その響きは神聖な音色を帯びて耳に届く
急な山道を登るたびに
日常が一枚ずつ剥がれ落ちていくようで、心は少しずつ軽やかになっていく
奥宮で静かに参拝し、そのまま山頂へ
たどり着いた先には、まるで絵画のような景色が静かに広がっていた
胸の奥から、澄みわたるような感情がふわりと立ち上がり
自分の中の静けさとそっと向き合う
デザインと向き合うということ―
デザイナーとして日々感じるのは、未来というものがいつもまだ輪郭を持たない、ということ
どんなに情報があふれていても、どんなにトレンドを追っていても
これから先に“確実な正解”を見つけるには試行錯誤が必要だということ
だからこそ、過去の経験や記憶、今この瞬間の情報を整理しながら
一見関係のないように思える断片も見落とすことなく拾い集めて
“モノ”と“コト”の本質に向き合うと自ずと次に進むべき方向が少しずつ見えてくる
全ての感覚に細かく耳を澄ませて
今ある空気感、触れた時の素材の質感、本質に潜む光のようなものを丁寧に捉えることで
ようやく“カタチ”にしていくヒントが見えてくる気がする
デザインとは、単に美しさや機能をつくることにとどまらず
見えない雰囲気や、誰かの心地よさの感情にそっと寄り添うこと
そうして生まれたクリエイティブは、誰かの記憶に静かに息づき、“普遍的な価値”になり得ると信じている
不確かな未来を、確かなカタチにするために
“今ここにあるものと真剣に向き合うこと”
それが、自分にとっての創造の原点なのだと
帰り道、車に戻ると
少し心地よい風が吹き、日差しはやさしく柔らかかった
“心の感度”が、静かに戻ってくるのを感じる
自然に触れるのもきっとひとつの“クリエイティブ”なのだろう
そんな時間が、また、次のデザインを少しづつ良くしてくれる気がする